一般社団法人
協創リハビリテーションを考える会
Question
麻痺側の肩が痛いのは後遺症の影響でしょうか?
麻痺側の肩をリハビリで動かそうとすると、鋭い痛みが生じます。この痛みも麻痺による影響なのでしょうか?
このままずっと痛いままなのでしょうか?
Answer
◆脳卒中後に生じる「痛み」とは
確かに臨床現場では脳卒中発症後、片麻痺の状態を呈すると痛みを訴える人が多く見られます。また、ご質問の通り麻痺側の肩に痛みを訴える方は少なくありません。
しかし、まず前提として片麻痺になったから必ず痛みを生じるというわけでは決してありません。
「片麻痺=痛み」ではないのです。痛みを生じるには様々な理由があります。
痛みを生じる原因には以下のものが考えられています。
①亜脱臼による痛み
片麻痺を呈した方は肩関節の亜脱臼を引き起こす事が多いです。肩関節は腕の骨である上腕骨が肩甲骨に収まる形で関節を形成していますが、亜脱臼とは、その収まりが失われている状態のことです。
上腕骨を支えている筋肉が麻痺を起こすことで、通常よりも肩甲骨に対して収まりが悪くなります。
さらに座位や立位などの姿勢では、重力が常にかかっていますので、より一層、重力の影響で上腕骨は下方に引き下がってしまいます。その結果、亜脱臼が生じます。
しかし、亜脱臼自体は痛みを起こしません。亜脱臼の状態で無理矢理自分で動かしたり他人に動かされることで、痛みが生じると言われています。
亜脱臼の程度が強い場合は三角巾を使用して上腕骨が下方に下がりすぎないように安定させるなどの対応も必要です。
また、高い机などに腕を乗せ、腕が重力で落ちないよう(負担がかからないよう)上肢のリハビリを行うことも重要です。
②異常筋緊張による痛み
片麻痺を呈すると問題になるのが、異常筋緊張と呼ばれる状態です。筋は本来、神経により適度な緊張状態(適度な張り)を保ち、随意的に収縮させることが出来ます。しかし、脳卒中になると、神経が損傷するためこの随意的な収縮が困難になります。
そして、一部の筋緊張が過剰に高まり(亢進し)、一部の筋緊張が過剰に弱まる(抑制される)という現象が生じます。
筋緊張が過剰に亢進してしまうと、筋の柔軟性が低下し、血液循環も不良となり痛みを引き起こします。
この異常筋緊張による痛みは臨床場面でよく見られます。
二次的に生じている痛みですので、リハビリを行い過剰に働きすぎている筋の緊張を抑えることが必要となってきます。
また、自身でも可能な範囲でストレッチを行うなどの自主トレーニングも必要です。
③インピンジメント症候群
インピンジメントとは、“衝突・挟まる”という意味を持ちます。
肩関節は他の関節と比べとても動かす範囲が広く、様々な動きができる自由度の高い関節と言えます。
そのため、肩関節は他の関節と比べ、関節構造的には非常に不安定であり、その不安定性を補うために筋肉や靭帯などが多く付着し安定感を形成しています。
インピンジメント症候群とは肩をあげて動かすときに肩を安定させている筋肉や滑液包と呼ばれるクッション的な役割を持つ組織が、肩関節内で“挟まる”ことで痛みを起こす現象です。
片麻痺を呈すると、筋緊張のアンバランスが生じるため、肩関節は不安定となり、インピンジメント症候群を回復過程で引き起こしやすいです。
対策としては、やはり無理に動かすのではなく、正しい動きをリハビリの中で獲得していきながら、徐々に関節の可動範囲を広げていくことが望ましいです。
④視床痛
脳の視床と呼ばれる部分が損傷することにより生じます。視床は脳出血の好発部位でもあり、視床出血を起こし視床痛に悩まれている方は多いです。
視床痛は持続性、発作性の耐え難い痛みを引き起こすと言われています。また、「触ったものがわからない」「自分の手や足がどこにあるかわからない」などといった感覚の重度な障害も伴います。
鎮痛療法でも,なかなか治まらず確立した治療法はまだありません。痛みの程度は個人差がありますので、医師に相談する必要が
あります。
⑤関節の拘縮
片麻痺を呈し、動かさない時間が増えてくると関節は固まってきます。関節が固まった状態を拘縮と呼びます。拘縮を生じてしまうと、固まった関節を無理に動かそうとすることで痛みを生じます。しかし、痛いからと言って動かさなければ、関節はそのまま固くなってしまいます。このような悪循環が生じないよう、自身でも可能な範囲で関節や筋肉を動かしたり伸ばしたりすることで関節の機能を保持することが必要です。
⑥肩手症候群
脳卒中を発症した二次的合併症として生じることが多い病態です。麻痺側の上肢に強い痛みと腫れを呈し、肩関節や手関節の可動域制限と手の浮腫と痛みが特徴的です。
持続的かつ高度な痛みを呈します。
発症後,2~3ヶ月程度の時期に見られ始めると言われています。治療には、医師とリハビリの連携が重要となってきます。
自身では決して無理に痛い部分は動かさず、療法士などの指導を受けた上で愛護的に動かすことが重要です。